持て余された年月に いよいよ急かされ
立ち上がり、壁を見る ありふれたベニヤだ
(年月よ あまり 急かさないでおくれ)
(急かされても 大したことはできないよ)
ベニヤ 木目がある くっきりと
此奴の 生き、た、証だ 木目 木目 ああ
そうか 「亡骸」 に囲まれているのか
木目骨 きめぼね ここは 「墓」なのか
私 墓ぐらし 可笑しなはなし
生きているのになあ 私 生きているんだぞ
山奥の このプレハブに 八年もいる
白いシャツが 学校を出て
赤いシャツの 工場で 主任になるまで
ずっと私は この「墓」にいた
もういい もう十分だ ああ もう
ギャルを はべらせたい……
玄関マットを踏むと 柔らかく沈んで
下のコンパネが 腐っていると 分かった
やれやれ 一体 この人生は 何なんだろう
ガチャリ ドアを開ける 久しぶりの 外
まず 眩しい そして 蝉の鳴き声
鼓膜がしびれる その音が 全てになる
私の感覚 器官は 一つを 全てにする
全ては一つで 一つは怖い
慌てて耳に 草をつめた かぶれないか
水路があった 波が 日の光を 刻んでいる
そこへ 小便をする 膀胱生物 こと 私
光は さらに みじん切りにされる
(小便は 包丁だったのか……)
顔を上げると 電柱と電線があった
頼りない 傾いた電柱に 一本の電線が
シルクのような 青空と
換毛期の犬のような 雲を背景にして有る
「よく似合っている」と、私の清涼が言った
電柱と 電線は 夏の季語で よろしい
にしても暑い 暑すぎる 地獄だあ
もういい もうたくさんだ 墓へ戻ろう
(墓には エアコンが あるのでした)
ガチャリ ドアを開ける 数分ぶりの 墓
玄関マットを踏むと 柔らかく沈んで
下のコンパネが 私っているのを 思い出す
ギャルだ!
ギャルが 畑で フラメンコを踊っている!
ギャル おり はべり 今 盛り
ギャル おり はべり 今 盛り
盛れど 盛れど猶 墓ぐらし
まともにならざり ぢつと幻を見る
それから また 八年が経ち
私は 木目骨 きめぼね に 成り果てた
ここはプレハブ 墓のプレハ ブ
ハブられを 抱えた人が 流れつく 吾亦紅